LEWD IMPULSE 〜旋律〜
少女はピアノを弾いていた。 か細くて、空虚(うつろ)な、そして神聖な少女。 彼女の部屋は薄暗くピアノの音だけ響いている。 ピアノの音は、何処か儚げで・・・ 「綺麗な旋律(きょく)だ。」 そして、切なく淫ら・・・。 でも知らない旋律。 そう呟いたら、少女は美しい金糸をゆらしてこちらに振り向いた。 「知りたいの?」 少女はそう問うた。 「教えてくれる?」 そう訊くと、少女は構わずピアノを弾き出す。 不快になることもなく、聴き惚れる。 少女の表情は変わることなく、その両手は美しい旋律を次々に産み出す。 その切ない音に聴き惚れる。 「貴方は、何を望むの?」 少女が旋律を産み出す手を止め、こちらを向く。 「何・・・と言うと?」 問うてみた。 「ここに来る人は、望んでいるの。」 少女は、静かに響く声でそう言った。 「私は何も望んでいないよ。」 そう言った。 「嘘。」 少女は、冷たく微笑んだ。 「貴方、さっき私の旋律(おと)を淫らだと言ったわ。」 少女に言われ、先ほど自分が呟いたことを、頭の中で繰り返す。 そう・・・彼女の旋律(すがた)は・・・あまりにも淫らだった。 その神聖な肢体には薄く透けた白い絹以外を纏うことは許されず、その美しい金糸は、派手な装飾をすることを許されず、その軽やかな足は直にモノを感じるコトを強制され、その白く透き通る腕は、旋律を産み出すことだけに縛られて。 少女は、旋律を産み出すことだけのために生きている。 「別に、怒っているわけじゃないわ。淫らって言葉、好きよ。」 少女が微笑んだ。 「もう一度、今の旋律(きょく)を聞かせてくれるか?」 そう問うと、少女は無表情でピアノに向かう。 ピアノを弾く少女にゆっくりと近づく。 少女は、気づいていないかのようにピアノを弾き続けた。 不意に強い衝動が私を襲った。 私は、少女をピアノの椅子から引きずり下ろすと、床に転がした。 少女の顔はピクリとも歪まない。 「そんなに、私が憎い?」 少女が静かに言った。 「いや。違うよ。」 私が言うと、少女は嘲笑する。 「君が私のモノにならないかと・・・ね。」 私が言うと、少女は冷ややかに笑った。 「莫迦な人。貴方が望めば、私は貴方のモノなのに。」 「望めば??」 訊いた。 「だってそうでしょ?ピアノは、偶像。アレがなくても私は旋律を奏でられるわ。声があるもの。」 少女はそう言うと、また無表情になる。 「本当に望めば?」 もう一度訊く。 「貴方の中では、私は貴方のモノでも、私の中では、貴方は私のモノではない。それでも貴方が望めば、私は貴方のものになってしまう。」 少女は静かにそう言った。 「では、私は望もう。君が私のモノになるように。」 少女はにっこり笑って素直に私を受け入れてくれた。 ずっと奏で(うたい)ながら。少女の旋律を。 少女は永遠に私のモノになった。 後には、錆びた少女が残るだけ・・・・・・ さようなら・・・ 少女はそう奏で(うたっ)た。 少女の旋律は宙を舞う。 これ、ピアノだとか、旋律だとか、あんまり関係ないんだよ。 |